本屋さんに行くと、必ず旅行ガイドブックのコーナーに立ち寄ります。
とりわけ、旅エッセイや世界各国の絶景のフォトブックが大好きです。
梅田のジュンク堂で平置きにされていたこちらの作品。
ゆるい感じと思いきや、その土地の抱える問題とか文化がしっかり書かれつつ、著者の坂田さんの持つ魅力も要所に詰まっていて、私の好みとの相性は抜群にいい本でした。ずっと手元に置いときたい。
今日はそんな、久しぶりの書評レビュー(という名の感想)ブログです。
旅がなければ死んでいた
まずこちら、帯のキャッチコピーが強烈。
「アラサー 独身 彼氏なし(中略)、生きづらさを溶かす世界一周ひとり旅」でまずロックオンされ、書き出しの冒頭、「旅に出る前、私は社畜だった」の文章が続き、実体験としてアラサー・独身・社畜の悩ましい心情がわかる私に激フック。
その後、運命のように家に連れて帰ってしまいました。
内容:人生病んでる女性が世界一周するハナシ
旅エッセイになるので、当然ですが著者がその道中経験したことや、出会った人物のことが、地域ごとに書かれています。
注目したいのは、ピックアップされている国がなかなかのマニアックだということ。
モンゴル・ネパール・チベット・ギリシャ・ケニア・ナミビア・南アフリカ・ブラジル・ペルー・メキシコ・アメリカとか。
アメリカあたりはメジャーだけどあまり執着がなさそうだった。笑
しかも、そこで体験されいることも劣らずマニアック。
著者は女性ですが、男性顔負けのアクティビティをやってのけていると思いきや、最後にはロサンゼルスで現在の旦那様に出会うという、完璧なオチなのが素晴らしい。
著者:広告制作会社出身の働きウーマン
著者は坂田ミギーさんという女性。旅当時、31歳。
20代でうつ病を経験し、制作会社で馬車馬のように働いた末に体調を壊し、人生の休憩として旅に出かける前、31歳にして彼氏に振られる、という人生の持ち主。
博報堂関連の会社だから、きっとかなりのできる人なんだろうな。
いわゆる普通の女性らしからぬ旅というか、なかなかに濃ゆいイベントを全力でやり切るところが男前で、高感度上がりっぱなしでした。
読んだらきっと坂田ミギーのファンになる1冊
内容云々はもちろんそうだけど、私にはこの坂田ミギーという女性がすごく魅力的に感じた1冊でした。以下、感想です。
感想① 働きマンで世間の目に疲れたアラサー女性目線の描写がリアル...
まずもう、「アラサー」「うつ(に似た)経験あり」「(元)社畜」の時点で、全てを経験している私は他人事は思えず。
他に坂田女史を表すワードとして「独身」「彼氏ナシ」があるけど、私は本書のミギーさんと同じ年齢のころには彼氏はいたものの結婚はしておらず、「アラサー」の「独身」が経験する気持ちも通ってきたつもりで。
しかもこの方、吐血するほどハードな社畜で、絶対に私よりしんどい思いをされている...(私は幸い吐血経験はなかった)
そんな人が書かれているから、思い当たる節がありありで説得力がすさまじいです。
実際に読み進めていると、強制的に就活をして「働く意味」に疑問も持たずレールに乗った生き方をすることが良とされる日本的な価値観や、「女の幸せは〇〇」「〇歳までにこうなっておくべき」のような古典的な呪いで縛られた女性特有の心地の悪さに対する描写が本当にリアル。
それに対してビシッと自分の意見を述べられていて、「よく言ってくださいました!」と思うことのパレードです。
感想② 他の旅エッセイでは出てこない世界のコアなイベントが面白い
それに加えて、旅で経験されていることがものすごく濃くって。
この本を読まなかったら知れていたかどうかもわからないような現地の情景が書かれているからからびっくりします。
モンゴルでは幻の遊牧民ツァータンに会うため股間が割けるくらい馬に乗ったり、チベットではガイドや政府の決まり無視で「コルラ」と呼ばれる巡礼を行ったり、ペルーではシャーマンによる謎の儀式「アヤワスカ」でトランス状態になったり。
誰がこんなこと知ってるんだ。ということばかり。きっと日本にいる中で、よっぽど好きでない限りこんなイベントや文化が世界にあると知っている人の方が少ないのではないでしょうか。
特に海外旅行(ちょっとマニアックなところ専門の)や地理・歴史文化とかに興味のある方であれば、絶対に面白く読み進められると思います。
これ、最初からあるって知ってて行ったんだったらきっと相当な博識者だな...
しかも自分をかわいく見せようとかの表現は皆無で、笑いを取りに行っているような自虐めいたところがまたオモシロイ。
項が進むごとに坂田ミギーというキャラの深みにはまってゆくのです。
感想③「旅先の人」に敬意を示すスタイルに惚れた!
また、この本の全体的な特長として、「自分ばかりを主張しない」というのがあげられるのではないか、と私は思います。
最近フォトジェニックに走った旅本も多いですよね。
旅である以上、現地の暮らしや人がありきなのですが、「写真映えする景色」や「エンジョイしてる自分」にフォーカスしがちというか...
ああいうのより今回の本の方が断然好きです。
特にザ・女子が主役のフォトブックはリア充過ぎて、うちはもうついていけん...
この本はどちらかというと、自分よりも見えた景色みたいなものを大切にしていて、表現がユーモラスでありつつ率直で、現地の人の生き様にリスペクトがあって、各地域で抱えている問題もちゃんと書いてくれていて、すごく好感が持てます。
普通の下ネタやギャグめいたことも遠慮なく言うし、完全にミギーさん大好きになりました。
人生多少休んでもなんとかなる!!
自分の価値観をクリアにする大切さ、日本的固定観念に縛られたがための生きづらさ。
この本を読んでいると、そんなことが顕著に感じられるような気がします。。
誰しもが疑問にすることすらなかったけど潜在的にどこかで思っているであろう問題が、露呈されるというか。
私がこの本を買ったのは当たり前のように社畜として働き続けた末、心身を壊し、それこそ坂田さんが旅に出たのと同じように、仕事から離れて少しエネルギーを回復している時期でした。
やっぱり好きなことしたい、旅に出たいとは思うものの、結局はほかに考えることもあって今すぐ実行には移れていない。
でも、読んでからは一度止まることに肯定的になれたというか、休んででも自分なりの価値観をクリアにした方が幸せになれるんじゃないかとか、そんな思いが出てきて、最終的には少し気分が楽になったような気がします。
ちょっとレールから外れても、休む期間があっても、前向きに動いてさえいたら、人生トータルで見たときに決して悪いようにはならないと思えた感じ。
また一人、励みになる人生の先輩を見つけた気分です。本は大当たりの買い物でした。よかった!
最後に、レビュープロジェクトの話を
この本を読むもう一つの大きな理由になったものとして、「1レビュー20食プロジェクト」があります。
本のレビューがSNSなり、アマゾンなり、個人のブログなりに1件投稿されるごとに、著者が訪れたケニアのスラムにある学校に20食の給食が寄付されるというもの。
私が読んでブログに書くだけで子供たちの役に立てるなら、なんぼでも書きますよ!!と思いながらこちらの記事を書いています。クオリティは無視。書評ブログやっぱ苦手...
本としてこのようなプロジェクトを行っているのも珍しいですし、ケニアで起こっていることを少しでもシェアできたらという思いで、こちらのことを紹介させていただきます。
~2019年12月24日:追記~
こちらの『旅がなければ死んでいた』の番外編である、『恋が逝き 旅が始まり 愛が来た』が2019年11月に発売されました。その感想です。